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編集長から(2023年)

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2023年12月号

 今年の最終号をお届けします。
 今回の特集は、9月25日に中教審に諮問された「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方」について、どのように考えるかを、高等教育行政にかかわりの深かったお二人の元文部科学事務次官に執筆をお願いしました。また、私なりに、この諮問にどうこたえるかをまとめてみました。少子化に関しては、岸田政権が最重要事項として「異次元の少子化対策」を年内に打ち出す予定ですが、過去30年にわたる歴代内閣の様々な対策にもかかわらず、少子化は留まるところを知らず、さらに加速しています。
 文科省も重い腰を上げて、高等教育の適正規模を考えざるを得なくなった形です。国公立大学の規模に手を付けず、定員割れ私大は「ダメ大学」と捉え、市場からの早期撤退を促して「適正規模」を確保する、そのような答申だけはやめてほしいと、日本の高等教育の未来のために思います。

2023年11月号
 11月号は、大学の「防災」がテーマです。防災の『災』は、言うまでもなく『災害』のことですが、災害の発生は、台風や大雨など予見、予知できるものもありますが、その多くは突然、予想しない時間に、予想できない形で襲ってきます。平時なら冷静沈着に行動できても、思いがけない時に、思いがけない形で災害が襲ってくると、動転し、なかなか普段通りに行動できないものです。防災は、マニュアルを作って終わり、というのではなく、日頃から訓練を行っておくことが重要です。それも、『何月何日何時に防災訓練を行います』と予行して行うのではなく、ある日突然に、予告なしで実施することが効果的です。ところで、自然災害以外に『人災』もあります。突然のパワハラ事件、病院での医療ミス、教員が研究室で自殺、遺書に「いじめが耐えられなかった」との告発、大学の経営幹部がセクハラで訴えられるなどこうした『災害』の処理は、特に初動を誤るとダメージが拡大します。今回の特集を参考に、今一度自大学の防災管理体制を確認してみたい。

2023年10月号
 コロナ禍がようやく峠を越えたと思ったら、血なまぐさい戦争が始まり、罪のない市民が悲惨極まりない目に遭っている。意見や利害の違いを力で解決しようというこの状態は、人類がこの地上に現れてから変わらないのか? 文化、文明というが、人間は少しも進歩しないどころか、野蛮人の昔に戻っているのではないか。毎日憂鬱な日が続く。

2023年9月号
 去る8月25~26日、都内において第5回 「改革志向型職員研修プログラム」 を実施しました。参加者は、北は仙台、西は京都まで7大学 (私大6校、国立1校) から7名、さらにFLC (Future Leaders' Club、過去の受講者) メンバー4名 (内1名オンライン)が参加してくれました。メンター、講師は、本間、上杉はじめ理事、編集委員から10名が、FLC代表2名が務めました。25日 (金) は午後1時集合、午後一杯発表と議論、夕食、その後懇親会、26日 (土) は8時50分から夕方5時まで議論と、ハードなものでしたが、参加者全員、頑張ってくれました。この研修は、自分の所属する部署と大学・法人の喫緊の課題を取り上げ、課題を分析し、そのうえで解決法策を提案するものです。解決法策は、他の誰かが実行するものではなく、職場に帰って自らそれを実行する前提で提案することになっていますので、「空理空論」では提案になりません。また、所属部署だけでなく、大学・法人全体の課題を考えることは普段、なかなかないでしょうから、参加者にとってはいい経験になったと思います。参加者は既に延べ50人ほどになりました。年に一度は、FLC総会を開いて参加者のネットワークを維持したいと考えています。


2023年8月号
 『10兆円ファンド』については、本誌でも度々特集を組み、問題点を指摘してきましたが、そんなことにお構いなく、大学選定プロセスは着々と進行しています。既に、東大、京大、東北大の3校が候補校として選定され、選定委員会が実地調査を行っているといいます。この3校以外にも1、2校選定される可能性があるようですが、選に漏れた、しかし研究力において東大等と遜色のない他の大学は今、どのような思いでいるのでしょうか。また、選定を前提に急遽大学統合を決めた2つの国立大学は、予定通り、統合を進めるのでしょうか。こうしたことより、このファンドによって、日本の大学の研究力は本当に上がるのでしょうか。2、3の大学だけが、使い切れないほどのお金を得て、他の国立研究大学や核融合、高エネルギー物理学、宇宙、海洋、天文学などのビッグサイエンスや民俗学、日本学、国文学など人文社会科学系の研究を行っている共同利用機関などにはほんの申し訳程度の研究費(中核特色大学支援)しか回らない、こんなバランスを欠いた研究支援政策の先には、多くの課題が噴出するのではないでしょうか。

2023年7月号
 読者の皆様、暑中お見舞い申し上げます。例年ですと、7月の末から8月の初めにかけて立命館アジア太平洋大学の客員教授として「教育と社会」というテーマで集中講義を行うため、別府に出かけていました。副学長時代からの講義ですので、実に12年間にわたり授業を行ったことになります。最初の年はなんと270人もの受講生が集まり、大学からベトナム人の留学生(大学院生)をティーチング・アシスタントとしてつけてもらいましたが、日本語が完璧ではないため、資料作成や小論文の採点を頼むことができず、ほとんどなにかも自分でやらねばならず大変な思いをしました。しかし、僕の授業の仕方が悪かったのか、たくさん小論文を書かされるからなのか、年々受講生が減り、3~4年目には40人前後に落ち着き、グループワークなども授業に取り入れることができるようになりました。しかし、夏休みにこの授業があることで、どうも「夏休み気分」に浸ることができず、重荷だったのが正直なところです。それにここ3年はオンライン授業で、学生と直接触れ合う刺激も乏しく、そろそろ潮時かなと思い、今年は授業を辞退しました。愛車で大阪まで行き、フェリーで瀬戸内海を渡って、別府まで行き、授業が終わった後は、九州・四国一周ドライブに行ったこともあり、楽しい思い出がありますので残念ですが、これも潮時ということでしょう。

2023年6月号
 稀代の語学の天才と言われ、まったく言語体系の異なる10数か国語を自由に操る井筒俊彦の「ロシア的人間」(中公文庫)を読みました。1953年に刊行されたこの本は、プーシキンから始まり、チェーホフに終わる19世紀ロシアの作家、詩人、批評家の魂のこもった分析です。「序」で、筆者は、「ロシアは今日、世界の話題である。誰一人ロシアに無関心ではいられない。人類の未来とか、世界の運命とか、人間的幸福の建設かという大きな問題を、人はロシアを抜きにしては考えることができない。」と述べていますが、このことは今日現在最もよくあてはまると思います。

2023年5月号
 僕と家内の『終の棲家』は、東京の都心部の中高層マンションですが、85m2と子供3人が巣立った後の夫婦二人の住まいとしては十分な広さだと思うのですが、それがそうではなく、家内とのささやかな口論のもとになっています。家内は、家の中を「すっきりしたい」派ですが、僕は「捨てられない」性格なのが最大の口論の種です。確かに、廊下の空きスペースだけなら、ということで了解してもらった書棚がいつの間にかリビングルームにまで進出してきたことが彼女の最大の不満です。リビングには、既に大型スピーカー2個とオーディオ機器、チューナー類、それにCD、レコードが沢山置いてあります。今一つは、僕専用のクローゼットに一杯詰まった洋服、コート類です。スーツ、コート、ブルゾンなど20着ほどありますが、スーツなど2、3着あれば十分、他は捨てなさいという家内に抵抗してもう10年以上です。クローゼットには、テニス、ゴルフ用のウェアや折り畳み自転車や思い出の写真、画集なども沢山あります。僕には、執筆用の資料なども捨てるわけにはいかず、執筆用の机・椅子もあります。僕に言わせれば、子供が家に泊まるときのために一部屋あけてあるのですが、これを僕の書斎にすればすべて丸く収まると思うのですが、口論の種はつきません。

2023年4月号
 文部科学省や国立大学、教育委員会などの関係者が購読している『文教ニュース』という週刊誌があります。文科省だけでなく各関係機関の動向が紹介される一方、「大学人国記」といった国立大学の幹部の人物紹介などの連載物、さらにはOB/OGの活動(「○○局長を囲む会開催」、「元次官が著書を刊行」、「絵画同好会が展覧会を開催」など)に関するニュースも紹介されるので根強い人気を誇っています。政策の背景などがよく分かるので、筆者も定期購読をしています。この雑誌の冒頭に「文部科学時評」なるものが若手・中堅官僚によって匿名で書かれていますが、4月3・10日号に気になる文章がありましたので、一部紹介します。(総理補佐官が局長に対して「局長ごときが言う話ではない。俺の顔をつぶすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ、首が飛ぶぞ。」といった話に関して)『補佐官や参与に引っ掻き回されてきた文科省にとっても目が点になる話だ。何か言われて「あなたに言われる筋合いではありません」なんて拒めるはずもない。放し飼いにしていた飼い主の責任だろうに、まったく、偉い人は責任取らないから...』云々とあります。獣医学部問題、専門職大学、GIGAスクール、10兆円ファンドなどすべて内閣府や首相周辺の経産省官僚の発想から実行されたもので、問題が多いと思います。本誌でも近いうちに個別政策の問題点について検討したいと思います。

 2023年3月号
 コロナ禍もようやく落ち着き、マスクの着用も個人の判断に任されることになり、感染症法上の扱いも現在の2類から季節性インフルエンザ並みの第5類になることも決まりました。大学もコロナ禍前の平常に戻りつつありますが、この間、課外活動や海外留学なども大きな制約を受けました。3年にわたり、学生が被った不利益、不便は取り返しがつきませんが、彼らにはこれにめげず、何事も前向きにとらえて前に進んでいってほしいと思います。大昔の話で恐縮ですが、戦後の1948年生まれ、ベビーブーム世代で子供は多いのに、校舎の整備が間に合わず、小学校は午前・午後の二部授業をプレファブの仮設校舎で受けましたし、大学受験は「3当5落」(睡眠3時間で合格、5時間寝る奴は不合格)といわれるほどの激戦でした。大学に入ってみれば、大学紛争でまともに授業を受けることができませんでした。どの時代にも時代の制約は不可避なのです。自分たちだけが不運、不幸と思わず、コロナ禍の経験を糧にして頑張ってほしいと思います。


2023年2月号
 本会も、今年で創設から19年目を迎えます。月刊誌もこの2月号で実に212号を数えます。全くの五里霧中で始めたこの会も月刊誌も会員の皆様や理事などの役員、編集委員など多くの方に支えられてここまでやってくることができたと感謝しています。縁の下で支えてくれている事務局にも感謝です。こう書くと、「おや、マネ研もそろそろ店じまいか!?」と勘違いされそうですが、そんなことはありません。さて、3月25日(土)開催の総会が近づいてきました。今回は、基調講演として文部科学省高等教育局の若手官僚と目下名古屋大学でユニークな校舎の設計に当たった注目の若手建築家、小堀哲夫氏に登場いただきます。楽しみにしていてください。

2023年1月号
 今月号は昨年11月に行った英国大学訪問調査について報告いたします。コロナ禍により中止していた海外大学訪問調査ですが、出入国手続きの緩和などが行われたのを機に急遽実施いたしました。年間計画は保留としていましたが、オミクロンがピークを越え、次の新種が流行る合間であることも、判断を後押ししました。急なアポイントにもかかわらずご快諾下さった英国のヨーク大学、ハル大学、ダラム大学の皆様並びにアポを取ってくれた田中梓理事、千葉大学織田雄一教授に感謝申し上げます。英国への訪問調査は2018年に行った英仏大学訪問(『大学マネジメント』2018.9月号参照)に続き2回目になります。英国では授業料政策や奨学金制度、カレッジ制など英国特有の大学制度を持ち、過去30年間に大胆な改革が行われています。また、学生の参画の観点において、余り進んでいない我が国の大学にとって見習うべき点が多くあります。これまで翻訳記事は経費が嵩み掲載できませんでしたが、ITの目覚ましい発達のおかげで再現を試みました。今月号では紙面の都合上、全ての訪問大学インタビュー等について掲載できなかったため、来月号も引き続き英国大学訪問調査について報告させていただきます。本年もよろしくお願いいたします。

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